19年11月:大阪市・大阪市高速電気軌道事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ


今回のメルマガ【2019年11月号】目次

1 (労務×ひげを生やす自由×人事考課上の低評価×上司発言の限界)

ひげを生やしていたことを理由とした、人事考課上の低評価と上司の発言が、違法とされた例

(大阪市・大阪市高速電気軌道事件:大阪高裁令和1年9月6日)


【判例】

 

事件名:大阪市・大阪市高速電気軌道事件

判決日:大阪高裁令和1年9月6日

 

 

【事案の概要】

 

本件は、(使用者である)控訴人が設置していた地方公営企業である大阪市交通局の職員(高速運転士)として地下鉄運転業務に従事していた被控訴人ら(=従業員ら)が、ひげを剃って業務に従事する旨の控訴人の職務命令又は指導に従わなかったために人事考課において低評価の査定を受けたが、上記職務命令等及び査定は、被控訴人らの人格権としてのひげを生やす自由を侵害するものであって違法であるなどと主張して、控訴人に対し、それぞれ慰謝料などの支払を求めた事案である。

 

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。)】<下線部は、当事務所が加筆>

 

1 ひげを生やす自由について

 「・・・・ひげを生やすか否か,ひげを生やすとしてどのような形状のものとするかは,原判決も判示するとおり(「事実及び理由」第5の3(2)イ),個人が自己の外観をいかに表現するかという個人的自由に属する事柄である。
 しかし,少なくとも現時点において,ひげを生やす自由が,個人の人格的生存に不可欠なものとして,憲法上の権利として保障されていると認めるに足りる事情は見当たらない。そうであるからといって,労働者のひげに関してどのような服務中の規律も設けることができるわけではない。また,仮に,ひげを生やす自由が,憲法13条に基づく自己決定権の一部として保障されているとみ得るとしても,労働の場においては,そのような自由がいかなる場合にも完全に認められるというわけでもない。
 ひげを生やす自由が個人的自由に属する事柄であることを前提として,原判決の判示するとおり,労働者のひげに関する服務規律は,事業遂行上の必要性が認められ,かつ,その具体的な制限の内容が,労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認めるべきものである。」

 
2 本件身だしなみ基準制定の違法性について


 「・・・ひげは着脱不能なものであるから,服務規律でひげを生やすことが禁止されると,勤務関係又は労働契約の拘束を離れた私生活にもその影響が及ぶ(原判決「事実及び理由」第5の3(2)イ)。また,ひげを生やしていることそれ自体により,他人に対し客観的な被害を与えるという事態も想定し難い。
 しかし,被控訴人らは,当時,地方公務員の地位にあり,職務を行うに当たっては,公務に対する市民の信頼を損なわないように遂行することが要請される立場にあった(同ア)。また,交通局の営む地下鉄事業は,市民等が代金を支払って地下鉄を利用するものであり,同業他社との間で顧客獲得の競争も存在した。これらのことに照らせば,交通局が乗客サービスを理念とし,その一環として,ひげを含めた身だしなみを整えることを内容とする服務規定を設けることには,一定の必要性・合理性が認められるというべきである。
 したがって,ひげに関し制約の必要性は認められないということはできない。
 そして,ひげが社会において広く肯定的に受け容れられているとまではいえない我が国の現状に照らせば,原判決も判示するとおり(同ウ(ア)),「整えられた髭も不可」として,ひげが剃られた状態を理想的な身だしなみとする服務上の基準を設けることには,一応の必要性・合理性が認められる。ひげに対する許容度は,交通局の事業遂行上の必要性とは無関係ではなく,一方,本件身だしなみ基準は,ひげを一律全面的に禁止するものと解することはできない。

「・・・・・本件身だしなみ基準を解釈すれば,これは,ひげを全面的に禁止するものではなく,単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象とするものでもないとみるべきことは明らかである。」

以上より、「・・・・本件見だしなみ基準の制定自体が違法であるとの主張も採用することができない。

 

 
3 上司(運輸長)の面談の際の発言の違法性について

 

「・・・E運輸長は,当時,森之宮乗務所を含む4つの乗務所(中央線を含む4線)を統合する森之宮乗務運輸長の地位にあった者である(原判決「事実及び理由」第5の1(3)イ)。このような上位の職位にある者が職員に対し,人事上の処分や退職を余儀なくされることまでを示唆してひげを剃るよう求めた発言を,交通局の見解とは異なる本人の誤解に基づくものであるなどといった理由で,違法性がないと評価することはできない。また,実際に被控訴人Dがひげを剃らなかったとしても,被控訴人Dが,このような発言により,精神的圧迫や不安を感じたであろうことは優に認められる。
 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。

 

4 人事考課の違法性について

 

平成25年度及び平成26年度の「本件各考課は,被控訴人らがひげを生やしていることを主たる減点評価の事情として考慮したものであること,したがって,上記評価が人事考課における使用者としての裁量権を逸脱・濫用したものであって国賠法上違法である」

 

5 損害額について

 

本件各考課及びE運輸長の被控訴人Dに対する発言により,被控訴人らが心理的圧迫や精神的苦痛を受けたこと,被控訴人らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としてはそれぞれ20万円,弁護士費用としてはそれぞれ2万円が相当であるものと判断する。

 

 

【コメント】

 

上記裁判例を前提とすると、「ひげを生やしたこと」を主たる理由として、人事考課上、低評価にできない、ことになります。また、上司としても、人事上の処分や退職を余儀なくされることまでを示唆してひげを剃るよう求める発言は、できないことになります。

 

ただ、上記裁判例は、

a)地下鉄運転士の事案、であって、一般化できるとは限らないこと、

b)大阪市の事案、であって、必ずしも、私企業と同列に扱うことはできないこと、

c)高裁事案であって、最高裁判例ではないこと

 という点に留意すべきです。

特に、

「労働者のひげに関する服務規律は,事業遂行上の必要性が認められ,かつ,その具体的な制限の内容が,労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認めるべき」


との規範部分については、個別の案件によって、あてはめが異なる(=結論が異なる)といえます。

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