19年4月:学校法人産業医科大学事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ


今回のメルマガ【2019年4月号】目次

1(労務×学校法人×同一労働同一賃金×基本給)
基本給が低額であることが違法とされた例
(学校法人産業医科大学事件・福岡高裁平成30年11月29日)

①臨時職員である労働者と同時期に採用された正規職員の各基本給の格差が不合理と判断された例

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【判例】

 

事件名:学校法人産業医科大学事件

判決日:福岡高裁平成30年11月29日

 

 

【事案の概要】

 

本件は,被控訴人の臨時職員である控訴人が,使用者である被控訴人に対し,両者間の労働契約(本件労働契約)に係る賃金の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって,無期労働契約を締結している労働者(以下「正規職員」という。)との間で著しい賃金格差を生じており,労働契約法20条及び公序良俗に違反するとして,不法行為に基づき,損害金824万0750円及びこれに対する平成27年9月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。)】<下線部は、当事務所が加筆>

 

1内容の所在

「上記に述べたところを踏まえて,さらに,被控訴人における臨時職員である控訴人と正規職員との基本給に係る労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについて検討する。」

2事実及び理由

「ア 引用にかかる原判決の認定事実のとおり,被控訴人は,正規職員に対し,俸給,賞与のほか,退職時には退職手当を支給しているが,臨時職員に対しては,給与,賞与(支給月数は正規職員と同じ。)を支給するが,原則として時間外勤務等をさせず,宿日直勤務をさせないこととなっている。また,退職手当も支給しない。臨時職員は,人事考課制度の対象ではなく,その給与月額は,「臨時職員の取扱いに関する件」により雇用期間や職種に関わりなく,毎年一律に定められており,その金額は,毎年人事院勧告に従い引き下げや引上げが行われていた(なお,平成21年以降は,臨時職員について引き下げは実施されていない。)。基本給は,従業員に対して固定的に支給される賃金であるところ,控訴人(昭和55年8月採用)の基本給の額は,平成25年4月に18万2100円であったのに対し,控訴人と同じ頃(昭和56年4月)採用されたF氏は,平成25年3月当時37万6976円であり,その額は約2倍となっている。

 たしかに,臨時職員と正規職員との間においては,前判示のとおり,職務の内容はもとより,職務内容及び配置の各変更の範囲に違いがあるが,引用に係る原判決の認定事実のとおり,対照職員らは,いずれも一般職研究補助員として採用され,当初は,大学事務部学事課に属し,大学(理工学部機械科)卒業(中途採用)のC氏は同課共同利用研究室勤務,高校卒業のD氏は同課(動物研究センター)勤務,大学(理学部生物学科)卒業のE氏は同課(法医学教室)勤務,大学(家政学部生活科学科)卒業のF氏は同課(第1外科学教室)勤務,短大(衛生技術学科)卒業のG氏は大学事務部共同利用研究施設事務室勤務となり,6年ないし10年の後に主任となったもので,そうすると,前判示のとおり,専門的,技術的業務に携わってきたD氏,E氏を除くと,いずれも当初は,教務職員を含む一般職研究補助員として控訴人と類似した業務に携わり,業務に対する習熟度を上げるなどし,採用から6年ないし10年で主任として管理業務に携わるないし携わることができる地位に昇格したものということができる。

 なお,引用に係る原判決の認定説示のとおり,控訴人は,正規職員の採用試験を1度受験したものの,被控訴人において合格の取扱いはしておらず,控訴人は,受験に伴い学長秘書室での勤務の打診があったが,歯科口腔外科での継続勤務を希望して,その後,受験することはなかった。

 また,証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人においては,短大卒で正規職員として新規採用された場合の賃金モデルを平成24年度の俸給表をもとに作成すると,概ね採用から8年ないし9年で主任に昇格し,その時点での俸給は22万2000円(2級21号)となり,主任昇格前は約21万1600円(1級53号)となる。」

3結論

「イ これらの事情を総合考慮すると,臨時職員と対照職員との比較対象期間及びその直近の職務の内容並びに職務の内容及び配置の各変更の範囲に違いがあり,控訴人が大学病院内での同一の科での継続勤務を希望したといった事情を踏まえても,30年以上の長期にわたり雇用を続け業務に対する習熟度を上げた控訴人に対し,臨時職員であるとして人事院勧告に従った賃金の引上げのみであって,控訴人と学歴が同じ短大卒の正規職員が管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら満たさず現在では同じ頃採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は,同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において不合理であると評価することができるものであり,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

 

 

【コメント】

福岡高判平成30年11月29日学校法人産業医科大学事件では、臨時職員として30年間勤務してきた労働者の基本給と同時期に採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じている事案につき、(同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において)不合理な待遇差であるとの判断がなされました。使用者が注意すべき判例ですので、ご紹介します。

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