18年5月:九州惣菜事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ(組合対策、労働訴訟、労働審判等)


今回のメルマガ【2018年5月号】目次

 (労務×定年後再雇用×賃金)定年後の再雇用で賃金75%減給することは、違法であるとされた例(九州惣菜事件・福岡高判平成29年9月7日)

 

2 (労務×休日×労働時間)休日の待機時間が労働時間に当たらないとされた例(都市再生機構事件・東京地判平成29年11月10日)

 

3 (労務×運送業×手当の性質決定)運行時間外手当の支給は(歩合給ではなく)労働基準法37条に定める割増賃金の支払いに当たると認定された例(シンワ運輸事件・東京地判平成29年11月29日)

①【18年5月号】(定年後再雇用×賃金)定年後の再雇用での賃金75%減給は、違法であるとされた例

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【判例】

事件名:九州惣菜事件

判決日:福岡高判平成29年9月7日

 

 

【事案の概要】

 

 スーパーマーケット等に出店して惣菜類を製造販売することを主たる業態とするY社にて正社員として勤務しており定年退職したXが、Y社との間で再雇用契約を締結したのと同様の法律関係があるとしてY社に対して地位確認の請求と(予備的に)不法行為に基づく損害賠償請求(2163万2000円)等を請求した。

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。)】 

 

1 地位確認請求について

 

 本判決は、控訴人(X)は、「平成27年3月31日をもって」被控訴人(Y)「を定年退職し、被控訴人が設けた継続雇用制度(高年法9条1項2号)に基づき、定年後の再雇用を希望したが、被控訴人が提示した再雇用の労働条件(本件提案)を控訴人が応諾していないから、控訴人と被控訴人との間において、具体的な労働条件を内容とする定年後の労働契約につき、明示的な合意が成立したものと認めることはできない。」とし、

労働契約上の権利を有する地位の確認請求を棄却した。

2 不法行為に基づく損害賠償請求について

 

(1)公序良俗違反について

 

ア 一般論

 

高年法は、「定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進(略)等の措置を総合的に講じ、もつて高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与すること」を目的とし(1条。なお、同法にいう「高年齢者」とは55歳以上の者をいう(同法2条1項。同法施行規則1条)。)、65歳未満の定年の定めをしている事業主に対して、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置として、一定の公法上の義務(同法9条1項所定の高年齢者雇用確保措置を講じる義務等)を課すものである。
 同法9条1項に基づく高年齢者雇用確保措置を講じる義務は、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件の雇用を義務付けるといった私法上の効力を有するものではないものの、その趣旨・内容に鑑みれば、労働契約法制に係る公序の一内容を為しているというべきであるから、

 

同法(同措置)の趣旨に反する事業主の行為、

例えば、再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受入れ難いような労働条件を提示する行為

 

は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであり、事業主の負う高年齢者雇用確保措置を講じる義務の反射的効果として当該高年齢者が有する、上記措置の合理的運用により65歳までの安定的雇用を享受できるという法的保護に値する利益を侵害する不法行為となり得ると解するべきである。」と判断した。

イ 本件の場合

 

 「本件提案は、定年退職前はフルタイムの労働者であり、フルタイムでの再雇用を希望していた控訴人を短時間労働者とするものである。一般に、労働時間の短縮自体は労働者に不利益ではなく、控訴人がフルタイムを希望したのも、長時間労働することが目的ではなく主に一定額以上の賃金を確保するためであると解される。そこで、賃金についてみると、控訴人の定年前の月額賃金(33万5500円)を時給に換算すると1944円になり(弁論の全趣旨)、本件提案における時給900円はその半額にも満たないばかりか、月収ベースで比較すると、本件提案の条件による場合の月額賃金は8万6400円(1か月の就労日数を16日とした場合)となり、定年前の賃金の約25パーセントに過ぎない。この点で、

本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である。

 この点につき、被控訴人は、「店舗数の減少の影響」を主張するが、

①「本件提案における控訴人の決算業務に係る担当店舗数は43店舗とされており、定年退職直前の46店舗とさほど変わらない」

②「被控訴人の店舗減少の実績は、控訴人の定年退職の前後を通じて1割弱(平成25年からの比較においても2割程度)の減少にとどまっており、しかも、それが定年直後に一時に生じたと認めるに足りる証拠はない」

③「控訴人の担当すべき業務の範囲は定年退職前のものよりも(若干ではあるが)限定的なものとされていると解されるが、担当から外された業務の中には、棚卸表の入力・送付等といった、店舗数減少と完全には連動していないもの(すなわち、店舗数が減少したからといって直ちに同業務の全てが無くなるわけではないもの)も含まれており被控訴人の定年退職を機にその担当業務を本件提案の内容に限定するのが必然であったとまではいえない」

④「予め定年後の再雇用において控訴人の担当する業務量をフルタイム稼働に見合う程度にしておくことも可能であった」

⑤「控訴人を所定労働時間が一般従業員より短いパートタイマーとして再雇用するものとしたことが、事実上賃金の大幅減少に影響を与えた」

ことを根拠に、

「被控訴人が、本件提案をしてそれに終始したことは、継続雇用制度の導入の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は濫用したものであり、違法性があるものといわざるを得ない」とし、不法行為の成立を認めた。

 

 

ウ 慰謝料の額

①「月収ベースで約75パーセントの賃金を削減する本件提案の内容が定年退職前の労働条件との継続性・連続性を著しく欠くもの」

②「店舗数減少を踏まえて被控訴人が本件提案をしたことにはそれなりの理由があったといえる」

③「控訴人が、遺族厚生年金(月額7万7475円)を受給しており、本件提案により再雇用された場合には高年齢雇用継続基本給付金(1万4610円程度)も受給できる見込みであったこと、控訴人には扶養すべき親族はいなかったことからすれば、本件提案の内容は、控訴人につき特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給が開始していない年齢であったことを考慮してもなお、直ちに控訴人の生活に破綻を来すようなものではなかったといえる」

④「その他(控訴人の勤続年数等)の諸事情を総合考慮」を根拠に、

「慰謝料額は100万円とするのが相当である」と判断した。

 

3 結論

 

本判決は、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する請求については、棄却し、不法行為に基づく損害賠償請求については、100万円の賠償金を認めた。

 

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【コメント】

 定年退職後の賃金に関し、「同法(同措置)の趣旨に反する事業主の行為、例えば、再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受入れ難いような労働条件を提示する行為」は違反であるとの判断基準が示されましたので、参考になります。なお、本判例は、高裁レベルではありますが、上告棄却されています。

②【18年5月号】(休日×労働時間)休日の待機時間が労働時間には当たらないとされた例(否定)

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【判例】

事件名:都市再生機構事件

判決日:東京地判平成29年11月10日

 

【事案の概要】

 Xは、都市再生等に関する業務を行う独立行政法人Yに総務課長(非管理職)として雇用されていた。Xは、総務・経理業務及び特定公園施設の運営管理業務(以下、本件業務という)を行っていたところ、Yから休日も3時間以内に現地集合できるように指示されていたので休日に待機していたと主張して、時間外手当等をY社に対して請求した。

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。)】 

 

1 労働時間該当性について

 

(1)一般論

 

 本判決は、「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。
 そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。

したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。

 そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である」と解した。

 

()本件における判断

 

ア 前提事実

 

原告(X)が「平成27年4月1日に本件職場に異動すると、本件業務を担当することとなり」、被告(Y)「貸与の携帯電話を渡され、事故等が発生した場合の連絡を受けるよう指示されたこと、同日、本件施設の関係者に対して原告の自宅の電話番号を記入した連絡網を渡すよう指示され、原告の自宅及び被告貸与の携帯電話の電話番号が記載された緊急連絡網が作成されたこと、原告が休日に被告貸与の携帯電話を持っていなかったことにつきc所長が注意したこと、本件資料には「(連絡)~3時間」に「総務課長は現地に集合」と記載されていることなどの事実は認められる。」

 

イ 待機指示の有無

  本件マニュアルのうち、本件資料には「(連絡)~3時間」に現地に集合する旨の記載はあるが」、「本件資料の本件職場総務課長以外の者が行うべき対応の記載を見ても、1時間以内に本社へ出社、3時間以内に本社に到着などと記載されている者がおり、これらの者が全て記載された時間内に到着できるよう休日に待機を指示されていると解されるものではなく、本件マニュアルの他の資料を見ても「現地に赴く(できる限り早く)」などとなっているのであるから、本件資料は、事故等が起きたときの対応の目安を記載したものと解するのが自然である。」ことに加え、

   本件資料のみを見れば3時間以内に現地集合が必要と解釈することができないこともないが、3時間以内に現地集合するための待機の必要性について疑問があれば原告は容易に質問できたはずであり、それを妨げる事実は認められない上、本件業務に関して行われた4月3日のc所長からの説明、同月9日の合同ミーティング、同月20日頃のc所長からの説明、同月23日及び同年5月8日のd事業調整課長との面談、同月20日及び21日の安全衛生管理に関する研修会、毎月の時間外勤務の報告など待機の必要性の有無を確認しやすい機会が多数あったにもかかわらず、同年12月4日まで行われていない

さらに、

③ 「被告貸与の携帯電話の携帯を指示されたからといって、当該携帯電話に連絡があるのは事故等が起こった場合のことであり、利用者からの問合せのように通常起きることが予測されているものではなく、平成25年度から平成27年度を見ても1件も連絡が必要となる事故等は起きておらず、原告が本件業務を担当している期間にも当該携帯電話にメールや電話があったことはなかったのであるから、業務の性質としても待機が必要なものとはいえず、待機の指示があったとはいえない。」

 

したがって、「原告は、本件業務を担当していたとしても、休日につき、労働からの解放が保障されていたというべきであり、使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないから、原告の主張する時間外労働は労働時間とはいえない。」と判断した。

 

2 結論

本判決は、「原告の主張する時間外労働は労働時間とはいえない」とし、請求を棄却した。

 

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【コメント】

本判決は、現地集合時間のマニュアルの解釈が争点の1つとなっているところ、予防労務という観点からは、マニュアルの表現内容についても細心の注意を払う必要があります。なお、結論としては、従業員の請求は、否定されていますが、「平成25年度から平成27年度を見ても1件も連絡が必要となる事故等は起きて」いないことが大きな理由の1つと考えます。

③【2018年5月号】(運送業×手当の性質決定)運行時間外手当の支給は変動残業代として有効とされた例

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【判例】

事件名:シンワ運輸東京事件

判決日:東京地判平成29年11月29日

 

【事案の概要】

 一般貨物自動車運送事業等を営むY社にて大型貨物自動車を運転して小麦粉を配達する業務に従事していたXらが、Y社に対し、運行時間外手当は実質的には歩合給であり、運行時間外手当の支給は労働基準法37条に定める割増賃金の支払いに当たらないと主張し、割増賃金等の支払いを求めた。

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。)】 

          

1 割増賃金の支払いの有無  

(1)本件被告就業規則

  運行時間外手当(毎月末日締め、翌月25日支給)

 「乗務員が車両を運行することにより被告が受託先から得る運賃収入に一定の率(70%)を乗じた額に対し、別表(2)(略)に定める率(運送物及び車種によって異なる率が定められており、小麦粉の運送車については25%と定められている。)により算出した金額の全額を、時間外手当相当額として乗務員に支給する」。

 

(2)労働基準法37条の一般論

 本判決は、「労働基準法37条は、同条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを同条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されず」、「運行時間外手当についても、その算定方法から直ちに同手当の支給が割増賃金の支払いに当たらないということはできないものの、同手当の支給により労働基準法37条に定める割増賃金を支払ったといえるためには、そもそも、同手当が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものであるか否かを検討する必要がある。」と解した。

 

(3)本件において、割増賃金を支払ったか否かの判断

「被告においては」、

①「平成14年1月に被告が設立された当時の賃金規程から現在の本件賃金規程まで一貫して、運行時間外手当の全額を時間外手当相当額として支給し、労働基準法所定の計算方法により算定した時間外手当の額と差額が生じる場合には同差額を支給するものとされており」、

②「実際にも、従業員に対し、毎月、運行時間外手当の額と残業時間数を基に算定した時間外手当の額を記載した給与明細書等が交付されるとともに」、

③「上記差額が生じる場合には同差額が支給されて」おり、さらに、

④「被告は、多数組合である全国交通運輸労働組合総連合関東地方総支部シンワ運輸東京労働組合との間で、運行時間外手当が割増賃金として支給されるものであることを前提として、その算定の際の率等について協議を続け、平成25年11月1日、運行時間外手当が割増賃金として支給されるものであることを改めて確認する内容の労働協約を締結するとともに」、

⑤「現在、原告らが加入する労働組合である連合ちばユニオンシンワユニオンとの間でも、平成26年4月11日、本件賃金規程を含む本件就業規則の内容を同組合との労働協約とする内容の労働協約を締結していた」ことを根拠に

 

「被告と原告らを含む従業員との間では、従前より運行時間外手当が時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われる旨の共通認識が形成され、実際にも同認識に従った運用がされていた」と認められる。

 さらに、

⑥「基礎賃金額を意図的に操作したなどといった事情が認められない被告において、労働基準法所定の計算方法による割増賃金の額を上回る額を支給するか、下回る額を支給する場合であってもその差額を支給している限り、いかなる計算方法によりどの程度の額の運行時間外手当を割増賃金として支給するかは、基本的にその経営判断に委ねられた事項であるといえ」、

⑦「支給する運行時間外手当の額が労働基準法所定の計算方法による割増賃金の額を上回ることから直ちに、同手当について時間外労働等に対する対価性が認められなくなるものとはいえない」ので、

 

「運行時間外手当について、その全額が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものであると認めるのが相当である」。

 したがって、「被告による原告らに対する本件規定に基づく運行時間外手当の支給は、〔1〕通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができ、〔2〕割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないもの」であるので、「被告は、原告らに対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったものということができる」と判断した。

 

2 結論

 本判決は、「被告は、原告らに対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払った」と認定し、原告の請求を棄却した。

 

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【コメント】

本件は、①賃金規程上の明記、②時間外手当の額を記載した給料明細書等の交付、③差額支給、④多数組合との間での労働協約の締結、⑤原告らが加入する労働組合との間での労働協約の締結、⑥運行時間外手当の計算方法、額は経営判断に委ねられている、⑦支給する運行時間外手当の額が法律上の割増賃金の額を上回るとしても、対価性が認められなくなるわけではないことを理由に、運行時間外手当の支給は(歩合給ではなく)労働基準法37条に定める割増賃金の支払いに当たると認定されました。使用者に有利な判例だと思いますので、ご紹介します。

 なお、⑦では、支給する運送時間外の額が法律上の割増賃金の額を上回るとしても問題にはならないことが注目されます。

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