17年9月:福星堂事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ(組合対策、労働訴訟、労働審判等)


今回のメルマガ【2017年9月号】目次

1 (労務)タイムカードの打刻時刻に基づく原告主張の時間外労働時間数が過大であり、原告主張の時間外労働割増賃金の5割を相当と判断した例(福星堂事件・東京地判平成28年9月29日)


2 (労務)小規模な会社において、解雇に至る経緯の記録化・証拠化がなくとも解雇が有効とされた例(ネギシ事件・東京高判平成28年11月24日)

メルマガ①【2017年9月号】タイムカードに基づく原告主張の時間外労働割増賃金の5割を相当とした例

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【判例】

事件名:福星堂事件

判決日:神戸地姫路判平成28年9月29日

 

【事案の概要】

和菓子の製造・加工・販売を目的とするY社にて,菓子の運送業務に従事していたXが,Y社に対し未払いの時間外労働割増賃金294万3240円及び労働基準法114条に基づく付加金(並びにこれらに対する遅延損害金)の支払を求めた。

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。)】 

1 原告は被告に対して未払いの時間労働割増賃金支払請求権を有するか

(1)労働基準法上の労働時間の判断枠組み

 本判決は,三菱重工業事件(最一判平成12年3月9日民集54巻3号801頁)を引用し,「労働基準法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,この労働時間に該当するか否かは,労働者が使用者の指揮命令下におかれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,雇用契約,就業規則,労働契約等の定めの如何によって決定するものではない」との一般論を述べている。

 その上で,所定の始業時刻前の「タイムカードの打刻時間を始業時刻として主張する場合(早出残業)には、使用者が明示的には労務の提供を義務付けていない始業時刻前の時間が、使用者から義務付けられまたはこれに余儀なくされ、使用者の指揮命令下にある労働時間に該当することについての具体的な主張立証が必要であると解するのが相当」とした。

 

(2)労働時間該当性について

ア 具体的主張立証の存否について

本件事案において,原告はタイムカードの打刻時間を始業時間として割増賃金請求を行っていた。本判決は,これにつき上記の判断枠組みに従って,下記の通り判断している。

本件では,原告のタイムカードには所定の始業時刻の「午前8時30分よりも相当早い時間帯(5時台,6時台のものが多いが,中には4時台のものもある。)に打刻されているものが多いが,①原告は,業務日誌等を一切提出しておらず,始業時刻よりも相当早い時間帯に出勤しなければならなかった理由について判然としない」こと,②「原告は,菓子製品の搬送業務が過多であり,1日2回運送することを余儀なくされた日もあったなどと主張するが,いずれも抽象的な主張にとどま」っていることから,原告がタイムカードに打刻されている早朝の時間帯に出勤を余儀なくされ,使用者たる被告の指揮命令下に置かれていたとの具体的な主張立証がなされておらず,またそれを認める証拠もないと判断した。

また,③原告の所定の始業時刻の午前8時30分よりも相当早い時間帯の出勤記録につき,裁判所は「原告が早朝出勤を繰り返していたのは,被告の業務のためではなく,被告から貸与されている携帯電話を使って被告の女性従業員に長時間プライベートな電話をかけるためであったことが窺われる」との被告が主張する通りの事実認定を行い,前記の原告の主張立証の不足も相まって,タイムカードの打刻時刻から被告の指揮命令下におかれていたとは認められないと判断した。

 

イ 被告の黙示の指示について

原告は,被告が原告のタイムカードに打刻された時刻を知りつつ原告の長時間労働を放置していたことから,被告は原告の残業を黙認,原告に対して黙示の指示を出していたといえる以上,被告の指揮命令下にあったと主張した。

この点につき本判決は「被告代表者は原告に対して「朝早く仕事をしているのであれば,日報を出してください。」と2度ほど述べたが,原告は,日報を提出せず,逆に開き直って」,被告代表者に悪態をつき,「被告代表者の指示に従おうとしなかったのであり,被告代表者が原告の残業を黙認し,原告に対して黙示的な指示を出していたとは認められない」とした。

 

2 結論

 本判決は,結論として「原告が被告に早朝出勤を命じられ,日常的に所定の始業時刻前の時間外労働を余儀なくされていたとは認められないこと,原告が昼食も運転中に採ることが常態化しており,所定の1時間休憩を取ったことがなかったとは認められないこと等を考慮すれば,原告が時間外労働をしていたことは否定できないものの,原告の主張する時間外労働の時間は相当に過大である」として,「原告の時間外労働割増賃金は,少なくとも原告が主張する411万9749円の5割である205万9874円」と認めるのが相当と判断した。

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【コメント】

本件は,原告がタイムカードの打刻時刻が労働開始時刻であることなどを主張し,時間外労働割増賃金等の支払請求を行った事案です。

過去の裁判例においても,タイムカードが労働時間性を推認するものか否かという点が争われてきました。例えば,京都福田事件(京都地判昭和62年10月1日)は,タイムカードによって労働時間管理をしていたことが認められるとして,タイムカードに基づいて時間外労働時間数を判断しました。これに対し,三好屋事件(東京地判昭和63年5月27日)は,タイムカードの記載は出社退社時刻を示すもので,その打刻時刻が所定労働時間外であっても,それが直ちに使用者の指揮監督下にあったと推定するものとはいえず,使用者がタイムカードで労働者の労働時間を管理していた等の特別の事情を必要とすると判断しました。

イーライフ事件(東京地判平成25年2月28日)は,タイムカードの打刻時刻について,所定始業時刻前と所定終業時刻後とに分けて判断をしており,注目に値します。すなわち,所定始業時刻前にタイムカードが打刻されている場合,通常は労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたとは評価することはできず,タイムカードの打刻時刻が労働開始時刻であることの特別の事情が必要であるとしています。他方,所定終業時刻後にタイムカードが打刻されている場合,当該タイムカードの打刻時刻が労働終了時刻であるとしています。


本判決は,所定始業時刻前のタイムカードの打刻時刻を労働開始時刻として労働者側が主張する場合に,所定始業時刻前から使用者の指揮命令下におかれていたことの具体的な主張立証が必要であるとし,具体的な主張立証がないのであれば,労働時間とは認められないと判断したものであり,イーライフ事件と同様の判断をしたものといえます。

メルマガ②【2017年9月号】小規模な会社において解雇の経緯の記録化等がなくとも解雇が有効とされた例

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【判例】

事件名:ネギシ事件

判決日:東京高判平成28年11月24日

 

【事案の概要】

正社員12名、パート12名ほどの小規模な会社であるY社(控訴人)に雇用されていたX(被控訴人)が、平成26年5月に妊娠し、Y社代表者が同年6月にこれを認識したところ、Y社が同年9月末日をもってXを解雇したため、Xが、Y社に対し、本件解雇が男女雇用機会均等法に反し無効であり、Y社主張の解雇事由も事実でないと主張し、Xが雇用契約上の地位を有することの確認、並びに同地位を前提とした賃金及び不法行為に基づく損害賠償の支払等を求めた。

 

【原審(東京地判平成28年3月22日)の判断とY社の控訴】

 原審は、Y社が解雇理由として指摘する事実は、その事実が認められないか、又は有効な解雇理由にならないものであるため、Xにつき、就業規則上の解雇事由に該当するとは認められず、そうすると、仮に、Y社主張のとおり、本件解雇がXの妊娠を理由としたものでないとしても、本件解雇には、客観的な合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、解雇権を濫用したものとして、無効であるとして、Xの請求を全部認容した。

 これに対し、Y社が控訴した。

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。)】 

1 本件解雇が解雇事由に該当すること

 本判決は、Xが「他の職員らに対してしばしば怒鳴ったりきつい言葉遣いや態度をとったり、叱責するなどしており、これに対し主として検品部門の職員らが強い不満やストレスを感じていたこと、このため、Z5が退職したほか、パート職員で検品部門の責任者であるZ3は、精神的に追い詰められ、控訴人代表者の慰留によって退職は思い止まったものの、2回早退をしようとし、2回目は実際に早退したこと、その他の職員らも被控訴人の言葉遣い等を問題視し、控訴人代表者に対して繰り返し改善を求めていたこと、控訴人代表者は、口頭によるものとはいえ、これまで再三にわたり、被控訴人に対し言葉遣いや態度等を改めるよう注意し、改めない場合には会社を辞めるしかないと指導、警告してきたにもかかわらず、被控訴人は反省して態度を改めることをしなかったこと」、「休暇を取得する際に事前に休暇届けを提出せず、自分宛の電話以外を取らず、他のほとんどの職員らに対してきちんとした挨拶もしなくなったこと」を認定した。

 そして、Xの「このような態度等は、単に職場の良好な人間関係を損なうという域を超えて、職場環境を著しく悪化させ、控訴人の業務にも支障を及ぼすものであるから、就業規則40条3号にいう「協調性がなく、注意及び指導をしても改善の見込みがないと認められるとき」に該当するほか、同条5号にいう「会社の社員としての適格性がないと判断されるとき」に該当する」 として、就業規則上の解雇事由該当性を認めた。

 

2 本件解雇がやむを得ないものとして有効であること

 そして、本件解雇の有効性について、Y社は「正社員12名、パート12名ほどの小規模な会社であり、検品部門にはそのうち半数の職員が在籍しているところ、被控訴人をこのまま雇用し続ければ、その言葉遣いや態度等により、他の職員らとの軋轢がいっそう悪化し、他の職員らが早退したり退職したりする事態となり、とりわけ検品部門は人数的にも業務的にも控訴人の業務において重要な役割を果たしており、その責任者や他の職員が退職する事態となれば、控訴人の業務に重大な打撃を与えることになると控訴人代表者が判断したのも首肯できる」し、Y社は「小規模な会社であり、被控訴人を他の部門に配置換えをすることは事実上困難であるから」、「この方法によって職員同士の人間関係の軋轢を一定程度緩和させて職場環境を維持することもできず、解雇に代わる有効な代替手段がない」うえ、Y社「代表者は、これまで再三にわたり、被控訴人に対し、言葉遣いや態度等を改めるよう注意し、改めない場合には会社を辞めるしかないと指導、警告してきたにもかかわらず、被控訴人は反省して態度を改めることをしなかった」ため、「本件解雇はやむを得ないものと認められる」として、「本件解雇は、解雇権の濫用に当たるものではなく、有効である」と認めた。

 

3 妊娠を理由とする解雇として無効とはならないこと

 また、本件解雇がXの妊娠を理由とするものであり、男女雇用機会均等法に反し無効であるとのXの主張に対しては、本判決は、「本件解雇は、就業規則に定める解雇事由に該当するためされたものであり、被控訴人が妊娠したことを理由としてされたものではないことは明らかであるから、同条3項に違反するものではない」とした。

 

4 解雇の手続きについて

 さらに、本判決は、本件解雇に至る過程が十分に記録化・証拠化されていない点について、Y社は「正社員12名、パート12名ほどの小規模な会社であり」、「これまで従業員の解雇はもとより、懲戒処分をしたことも、始末書を提出させたこともなかったことから」、「本件解雇に至る過程が十分に記録化・証拠化されていないことには致し方ない面があり、また、本件解雇に先立ち懲戒処分や始末書の提出を経なければならない理由はなく、むしろ、前記認定のとおり、控訴人代表者は再三にわたって被控訴人と話合いの機会を持ち、注意や指導を繰り返しているのであって、控訴人の前記主張が信用できないということはな」いとした。

 

5 結論

 以上の検討を経て、本判決は、本件解雇を有効であるとして、Xの請求を全部認容した原審の判決を取消し、Xの請求をいずれも棄却した。

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【コメント】

本判決は、小規模会社では、解雇に至る経緯の証拠化・記録化が不十分でも致し方ない面があると認定し、このような証拠化・記録化がないからといって解雇が無効になるというものではないと判断しております。


ただし、本件では、Y社代表者が再三にわたってXと話し合いの機会を持ち、注意や指導を繰り返していたという認定がなされております。そのため、小規模会社であっても解雇に先立ち注意や指導をすることは必要です。また、予防法務という観点からは、小規模会社といえども、注意や指導を記録化・証拠化することが重要であるといえます。


本判決は、①Xの態度がY社の業務に重大な打撃を与えること、及び②小規模会社であることからXを他の部門に配置換えをすることが事実上困難であることなどを理由に、配置転換は解雇に変わる有効な代替手段ではないと判断しており、参考になります。


このように、本判決は、特に小規模会社の使用者側にとって有利な判決ですので、参考になります。

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