17年4月:国際自動車事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ(組合対策、労働訴訟、労働審判等)


メルマガ【2017年4月号】目次

①タクシー乗務員の歩合給及び残業代に関し、会社の主張を認めた事例
②就業規則の変更による退職金減額が有効とされた例<学校法人のケース>
③パワハラによる損害賠償請求(約120万円)が認められた事例<病院>

メルマガ①【2017年4月号】タクシー乗務員の歩合給及び残業代に関し、会社の主張を認めた事例

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【判例】
事件名:国際自動車事件
判決日:最判平成29年2月28日
 
【事案の概要】
上告人(被告会社)に雇用され,タクシー乗務員として勤務していた被上告人(原告)らが,歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定める上告人(被告会社)の賃金規則上の定めが無効であり,上告人(被告会社)は,控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して,上告人(被告会社)に対し,未払賃金等の支払を求めた。

【判旨】(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。)
1 被告会社における賃金の定め
被告会社の就業規則の一部であるタクシー乗務員賃金規則(以下「本件賃金規則」という。)は,本採用されているタクシー乗務員の賃金につき,おおむね次のとおり定めていた。

「ウ(ア) 割増金及び歩合給を求めるための対象額(以下「対象額A」という。) を,次のとおり算出する。
対象額A=(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-公出基礎控除額)×0.62
(イ) 所定内基礎控除額は,所定就労日の1乗務の控除額(平日は原則として2万9000円,土曜日は1万6300円,日曜祝日は1万3200円)に,平日, 土曜日及び日曜祝日の各乗務日数を乗じた額とする。また,公出基礎控除額は,公出(所定乗務日数を超える出勤)の1乗務の控除額(平日は原則として2万4100円,土曜日は1万1300円,日曜祝日は8200円)を用いて,所定内基礎控除額と同様に算出した額とする。」

「オ 残業手当は,次の①と②の合計額とする。
① {(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×1.25×残業時間
②(対象額A÷総労働時間)×0.25×残業時間」

「キ 歩合給(1) は, 次のとおりとする( 以下, この定めを「 本件規定」 という。)。」
「対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費}」

2 争点に対する判断について
「(1)ア 労働基準法37条は,時間外,休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ,割増賃金の算定方法は,同条並びに政令及び厚生労働省令(以下,これらの規定を「労働基準法37条等」という。)に具体的に定められている。もっとも,同条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり,使用者に対し,労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし,これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。
そして,使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条 の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約 における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,その ような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の 労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり」、「上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。」
「他方において,労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないというべきである」として、原判決中上告人(被告会社)敗訴部分を破棄した上で、原審に差し戻すべきと判断した。

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【コメント】
1 歩合給の割増賃金
会社が従業員に対して支払う賃金の中に、歩合給がある場合、当該従業員が時間外労働等をしたときは、当該歩合給についても割増分の支払いを行う必要があります。
 通常、歩合給の時間外労働の割増賃金の計算は、

 歩合給(賃金の総額)÷総労働時間×0.25(割増率)×時間外労働時間

となります。
 本件では、上記計算式における「歩合給(賃金の総額)」部分が、割増賃金(本件における、残業手当、深夜手当及び公出手当)を控除した金額となっている点につき、その有効性等が争われています。

2 原審の判断
原審においては、「本件規定のうち,歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は無効であり,対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべきであるとした上で,被上告人らの未払賃金の請求を一部認容すべき」と判断しました。
その理由として、原審は、「割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして,揚高が同額である限り,時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になるから,本件規定は,労働基準法37条の規制を潜脱する」ことを挙げています。
すなわち、当事務所が推測するに、

①ある従業員の特定の月の「対象額A」が10万円、「残業手当」が1万円、「深夜手当」が5000円、「公出手当」が1万5000円、「交通費」が5000円の場合、

「歩合給(1)」は、6万5000円(10万円-(1万円+5000円+1万5000円)-5000円)となり、「歩合給(1)」「残業手当」「深夜手当」「公出手当」の合計は、9万5000円となります。

他方、

②ある従業員の特定の月の「対象額A」が10万円、「残業手当」が0円、「深夜手当」が0円、「公出手当」が0円、「交通費」が5000円の場合、

「歩合給(1)」は、9万5000円(10万円-(0円+0円+0円)-5000円)となり、「歩合給(1)」「残業手当」「深夜手当」「公出手当」の合計は、①と同じく9万5000円となります。

このように、原審は、時間外労働等がある場合もない場合も、「揚高(売上高)」が同じである限り、従業員が支払いを受ける(歩合給及び残業手当等の)賃金額が同額となってしまう点が、問題であると指摘しています。

本件賃金規則は、能率の良い従業員と能率の悪い従業員(売上高は同額であるが、所定労働時間内で当該売上高を達成した従業員と、時間外労働等をして当該売上高を達成した従業員)とで、支払いを受ける賃金額が同額となるように制度設計をしたものと推測されますが、原審は、まさにこの点を問題視しています。

3 最高裁の判断
原審の判断に対し、最高裁は、前述のとおり、労働契約において売上高の一定割合に相当する金額から労働基準法37条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨の定めが、当然に、労働基準法37条の趣旨に反するとして、公序良俗に反し無効と判断することはできないとしました。
 その上で、最高裁は、本件賃金規則における賃金の定めについて、

ア:通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か(いわゆる、明確区分性)、

イ:そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条に定められた方法により算出された割増賃金の額を下回らないか否か(いわゆる、差額支払い)

について、審理判断をするために原審に差し戻しています。

4 まとめ
 最高裁は、本件について、歩合給の場合に労働基準法37条の割増賃金の算定方法以外を採用することも有効であると判断したわけではなく、そのような場合においても労働基準法37条の趣旨に反して当然に無効となるわけではないと判断したに過ぎません。
 そのため、本件については、本件の最高裁の判断を前提にした差戻審における判断が、注目されます。

メルマガ②【2017年4月号】就業規則の変更による退職金減額が有効とされた例<学校法人のケース>

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【判例】
事件名:甲学園事件
判決日:大阪地判平成28年10月25日
 
【事案の概要】
Y学園の教職員であったXらは、新人事制度の導入により就業規則等が変更されたこと(以下、「本件変更」という。)で退職金が減額となった。そこで、Xらは、Y学園に対し、本件変更はXらを拘束しないとして、本件変更前の規則に基づく退職金と既払退職金との差額の支払等を求めた。

【判旨】(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。) 
1 本件変更が不利益変更であること
本判決は、まず、「原告らの退職金の額が減額となるという事態が生じていることからすれば、本件変更は不利益変更に当たる」とし、「本件変更が,退職金制度のみを変更するものではなく,人事制度全体を改正するものであることからすれば,退職金支給規則のみに着目するのではなく,人事制度全体に着目することが必要」であり、本件変更の有効性の検討においても、「退職金のみならず,新人事制度全体を踏まえて検討をする必要がある」とした。
そのうえで、一般論として、「就業規則の変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが,労働条件の集団的処理,特にその統一的,画一的決定を建前とする就業規則の性質上,当該条項が合理的なものである限り,個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として,その適用を拒否することは許されないと解され(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決・民集22巻13号3459頁参照),当該変更が合理的なものであるとは,当該変更が,その必要性及び内容の両面からみて,これによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)」として、不利益変更の合理性の判断基準を示した。

2 本件変更の合理性
(1)変更の必要性について
Y学園の経営状態について、本判決は、「被告の経営状態は危機的なものであった」と認定し、「被告の経営状況は非常に悪化していたといわざるを得ず,経営状態が改善されなければ最悪の場合には解散をも視野に入れざるを得ないこととなる」から、「本件変更には,労働者の退職金等という重要な権利に不利益を及ぼすこととなってもやむを得ない高度の必要性があったと認められる」として、必要性を認めた。
(2)本件変更による不利益の程度について
本判決は、「本件変更前の給与規則を前提とした場合の退職金と本件変更後の給与規則を前提とした場合の退職金とを比較すると,金額で270万4163円ないし424万2680円の減額となっており,割合でみると84.5%ないし89.6%の支給率となっているが,この差は決して小さなものではないから,不利益の程度は大きいものであった」と認定した。
(3)本件変更後の内容の相当性について
本判決は、「変更後の内容自体の相当性,代償措置その他関連する労働条件の改善状況や,同種事項に対する一般的状況等についてみる」として、それぞれの要素を検討している。
(ア)激変緩和措置について
①「激変緩和措置が設けられ,同措置に基づき補償金が支払われている」し、②「基本給が下がる職員については,新人事制度導入前の(原文ママ)退職したと仮定した場合の退職金と,新人事制度導入後の退職金とを比較し,高い方の金額によることとするなど,一定の激変緩和措置を設けている」とした。
(イ)代償措置について
「新人事制度を導入するに当たり,職群資格を設け,MC職群資格を取得した教職員については3号給上位の号給に昇給させることができるとし」ており、「MC職群資格を取得すれば必ず基本給が増額するという性質のものではないが,その場合であっても,MC職群資格を取得することで基本給の減額幅を抑えるのは可能であるから,被告が職群資格を設けたことは一定の代償措置であると評価することができる」と認定した。
(ウ)その他
さらに、「被告の退職金支給規則には本件変更の前後を通じて実質的な相異はない」ところ、「被告における退職金の支給率及び基礎となる基本給の額は,大阪府という同一地域内において高いものとなっている」とした。
(エ)以上の要素から、「本件変更後の内容は相当なもの」であると認めた。
(4)労働組合等の交渉の状況について
本判決は、「被告は,本件組合あるいは教職員に対し,少なくとも,突如として本件変更の必要性があることを説明したものではなく,以前から,複数回にわたって新人事制度導入の必要性やその内容について説明を行っていたと評価することができ」るし、「本件変更に係る説明に際しても,本件組合からの要求を受けて資料を開示するなどしていたほか,本件組合との交渉においても,新人事制度が所与のものであって,変更の余地がないというような強硬な態度をとることなく」,「柔軟な対応をとっていたと評価することができる」から、「全体として,被告の本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであったと評価することができ」るとした。

3 結論
本判決は、上記の検討を経て、「本件変更については,これにより被る原告らの不利益は大きいものではあるが,他方で,変更を行うべき高度の必要性が認められ,変更後の内容も相当であり,本件組合等との交渉・説明も行われてきており,その態度も誠実なものであるといえることなどからすれば,本件変更は合理的なものである」として、本件変更は認められるとした。


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【コメント】
1 変更の必要性について
本判決では、変更の必要性につき、被告の経営状態が危機的なものであったと認定されています。この具体的事情として、本判決では、被告には、
・消費収支でみると大幅な支出超過の状態が長期間にわたって継続していたこと、
・キャッシュフローの赤字が6年間以上続いており3年後には手元資金が底をつく見通しであること、
・支出の大きな割合を人件費が占めており、学生生徒等納付金が収入の大きな割合を占めているところ、収入を増加させるには入学生徒数を増加させることが主な方法であるが、入学生徒数が大幅に増加する現実的な見込みがあるということはできないこと、
・被告が私学共済事業団に対して借入れを申し込んだが断られていること、
・特定資産が大幅に減少していること、
・多額の資産を保有しているというような事情がないこと、
などの事情があったことが挙げられています。
本判決は、これらのような事情を踏まえ、「法人が末期的な状態に至ることを回避すべく,複数年にわたって赤字経営が続いており,その改善の見込みもなく,潤沢な余剰資産があるわけでもないというような状況下においては,破綻を回避するために労働条件を不利益に改正することもやむを得ない」と判断しています。すなわち、この事例では、変更の必要性が認められるためには、経営状態が末期的な状況であることまでは要求されていないと判断されており、参考になります。

2 本件変更後の内容の相当性について
本件では、被告の採用した①激変緩和措置とは、具体的には、本件変更の前年を基準とし(以下、「基準年」といいます。)、本件変更後1年目については、基本給総額が基準年から5%以上減額となる者については基準年の基本給総額の95%を保証することとし、本件変更後2年目については、基本給総額が基準年から10%以上減額となる者については基準年の90%を保証することとし、本件変更後3年目については、基本給総額が基準年から15%以上減額となる者については基準年の85%を保証することとするというものです。
激変緩和措置の内容は、個々の事例により異なりますが、この事例における激変緩和措置は、参考になります。

3 まとめ
退職金は、賃金の後払いとしての性質や、功労報酬的な性質などを有していることがあり、その減額は、容易に有効となるものではありません。本判決では、本件変更が有効とされていますので、どのような場合であれば、退職金の減額が有効となるのかにつき、参考としていただけますと幸いです。

メルマガ③【2017年4月号】パワハラによる損害賠償請求(約120万円)が認められた事例<病院>

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【判例】
事件名:Y連合会事件
判決日:福岡地小倉支判平成27年2月25日
 
【事案の概要】
Y連合会の運営する病院に看護師として勤務していたXが,同病院の看護師長である被告師長のパワーハラスメントにより適応障害を発症し退職せざるを得なくなったとして,被告師長に対しては,不法行為による損害賠償請求権に基づき,Y連合会に対しては使用者責任又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき,連帯して,損害金314万9916円等の支払を求めた。

【判旨】(「」内は判旨の一部抜粋。下線部は引用者による。)
1 事実経過
(1)被告師長言動1
原告は,平成25年4月9日,3番目の娘が数日前からインフルエンザに罹患しており,自身も体調が悪かったため,インフルエンザに罹患した可能性があるため受診し早退したい旨を被告師長に申し出た。同日時点で,原告の有給休暇は残っていた。
 被告師長は,前師長からの引継ぎも踏まえ,原告が子のことで休まないと約束したと認識していたことから,原告に対し,「受診してもいいけどしない方が良いんじゃない。P1(原告)さんもう休めないでしょ。」,「受診してもいいけど,娘がインフルにかかっているとかは言わない方がいい。インフルエンザの検査もしないで。」などと発言した。
 原告は,同日,受診しインフルエンザの検査を受け(検査結果は陰性であった。),早退はしなかった。
(2)被告師長言動2
 原告は,平成25年5月17日,4番目の娘が通う保育園から,40度の熱,嘔吐及び下痢のため迎えに来てほしいとの連絡を受け,夫も原告の母も都合がつかなかったため,被告師長に申し出て早退した。
 被告師長は,原告に対し,「子供のことで一切職場に迷惑をかけないと部長と話したんじゃないの。年休あるから使ってもいいけど。私は上にも何も隠さずありのままを話すから。今度あなたとは面談する。」などと発言した。
(3)被告師長言動3
被告師長は,平成25年6月11日の定例の面談において,原告に対し,「私が上にP1(原告)は無理ですと言ったらいつでも首にできるんだから。」などと発言した。
(4)被告師長言動4
 平成25年9月17日から18日にかけて,被告病院において,退院した患者に同姓の別の患者の薬を取り違えて渡すという過誤が発生した(以下「本件過誤」という。)。
被告師長は,平成25年9月19日頃,本件過誤の事実経過を聴取等する際,他の看護師もいるナースステーションで原告を厳しく叱責した。また,被告師長は,過誤防止対策の一環として,関与した看護師に対して当日の出来事を時系列で書いて提出するよう指示したが,原告に対しては,反省文を書くよう求めた。
(5)原告の体調不良
 平成25年7月頃から,原告には,胃が痛い,食欲がない,通勤の際病院に近づくと息苦しくなる,不眠等の症状が生じた。原告の上記症状について,被告師長は認識していなかった。
 原告は,同年4月以降は,有給休暇の範囲内で休暇を取得し,欠勤したことはなかったが,同年11月頃,心療内科を受診し,同月28日に適応障害のため平成26年1月31日まで自宅療養を要するとの診断,同月14日に同年3月末まで自宅療養の延長を要する旨の診断をそれぞれ受け,平成25年11月28日から平成26年3月31日まで病気休業した。
 原告は,平成25年11月より前に心療内科等を受診したことはなかった。
 原告は,平成26年3月31日,退職した。

2 争点(1)(不法行為の成否)について
(1)被告師長言動1及び2について
本判決は、被告師長言動1及び2について、「労働基準法39条所定の要件を満たす場合,労働者は法律上当然に所定日数の有給休暇を取る権利を取得し,使用者はこれを与えるのみならず,労働者が有給休暇を取ることを妨げてはならない義務を負う。前記認定にかかる被告師長言動1及び2は,原告が有給休暇を取得することは望ましくないとする意思を表明するものであるところ,直属の上司としてのそのような発言は,結果として有給休暇を取得したとしても,その後に有給休暇を取りにくい状況を作出したり,有給休暇を取得したこと自体が人事評価に影響するなどの発言とともにされた場合には,使用者の上記義務に反し,労働者の有給休暇の権利を侵害するものというべきである。
 これを被告師長言動1についてみると,原告からの受診及び早退の申出が急にされたものであることを前提としても,インフルエンザに罹患した可能性があるのにその検査をしないよう求めること自体が医療従事者として不適切といわざるを得ない上,原告は受診しインフルエンザに罹患していなかったが結局早退しなかったこと,被告師長言動2においては,原告が急病の子を保育園に迎えに行くためやむを得ず早退を申し出たという事情にもかかわらず,有給休暇を取得した場合には評価にも関わるとの原告を威圧する発言と併せてされたことに鑑みると,前年度に原告が全ての有給休暇を取得したほか欠勤も相当期間あったことを考慮しても,なお違法というべきである」と判断した。
(2)被告師長言動3について
本判決は、「私が上にP1(原告)は無理ですと言ったらいつでも首にできるんだから。」との発言は,「1年の期間の定めのある雇用契約の下で勤務する原告に対し,雇用契約の継続について不安を生じさせ得るものであるから,少なくともその根拠となるに足りる事情が存在し,そのことについての指導等を行った上ですべきであるが,平成25年4月に2度目の雇用契約がされてから2か月が経過した同年6月時点において,原告について雇用契約の継続に影響するような勤務状況があり,そのことについて被告師長らが指導をしていた等の事情は記録上うかがわれないから,配下にある者に対し過度に不安を生じさせる違法な行為というべきである」と判断した。
(3)被告師長言動4について
本判決は、「被告師長言動4は,原告も自身に責任があることを認めている本件過誤に関しされたものであるところ,その重大性に照らすと,ナースステーションにおける叱責が,上司として許容される相当な指導の範囲を逸脱するものと直ちにいうことは困難である。しかし,本件過誤に関与した他の看護師2名と比較して原告の落ち度が明らかに大きいとは認められないにもかかわらず(確かに,被告病院における運用上,薬の準備をすべきであったのは夜勤担当の原告であったが,実際には当日の看護師同士の現場での役割分担によって前日の日勤担当看護師が薬の準備をし,最終責任者は翌日の日勤担当看護師とされていた。),他の2名の看護師が作成した報告書とはその趣旨が異なるといえる反省文を原告にのみ書かせたことは,複数の部下を指導監督する者として公平に失する扱いであったといわざるを得ず,反省文提出までにされた口頭での指導ないし叱責についても,他の看護師と比較して長時間かつ厳しいものであったことがうかがわれる」と判断した。
(4)不法行為責任について
本判決は、「被告師長言動1から4までは,いずれも客観的には部下という弱い立場にある原告を過度に威圧する言動と評価すべきであって,被告病院南2階病棟の看護師長として,原告を含む同病棟に勤務する複数の看護師を指導監督する立場にある者の言動として,社会通念上許容される相当な限度を超えて,配下にある者に過重な心理的負担を与える違法なものと認められ,不法行為に該当するというべきである」と判断した。
(5)使用者責任について
本判決は、「Y連合会の使用する被告師長の被告師長言動1から4までの各行為は,Y連合会の被告病院の運営という業務においてされたもので,その事業の執行について行われたものであるから,Y連合会は原告に対し使用者責任を負うと認められる」と判断した。

3 争点(2)(原告に生じた損害額)について
本判決は、①慰謝料30万円、②原告が平成25年11月28日からY連合会を退職した平成26年3月31日までの約4か月間病気休業した休業損害61万5166円、③適応障害の治療のための治療費及び交通費18万4750円、、④弁護士費用相当損害金10万円の、合計119万9916円及び遅延損害金を、原告に生じた損害額と判断した。

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【コメント】
1 被告師長言動3について
本判決は、有期雇用契約社員に対して、雇用契約の継続について言及する場合には、「少なくともその根拠となるに足りる事情が存在し,そのことについての指導等を行った上ですべきである」としています。
有期雇用契約社員にとって、雇用契約の継続は重大な関心事であり、その不継続を示唆する言動は、有期雇用契約社員に対して過度に不安を生じさせるものであるため、少なくとも、本判決が例としてあげるような、雇用契約の継続に影響を与え得る勤務状況が現にあり、それを改善指導するために言及する場合でない限り、安易に言及することは避けるべきです。

2 被告師長言動4について
パワハラと熱心な教育・指導とは、一概に区別できるものではなく、上司自身は熱心な教育・指導を行っていると認識していても、パワハラであると認定される可能性はあります。
仮に、上司としては、それぞれの性格や能力に合わせた指導をしているつもりであっても、同様のミスをした部下に対して別の指導方法をとった場合には、より厳しい指導を受けた部下から、パワハラではないかとの認識を抱かれるリスクがあるという点に注意しておく必要があります。

3 まとめ
労働者がパワハラを受けた場合、会社としては、①パワハラを受けたこと自体による精神的苦痛の慰謝料だけではなく、②労働者がパワハラによって心身の健康に支障を来たしたことによる治療費や休業した期間の休業損害をも、支払わなければならないことになります。
また、パワハラは、パワハラを受けた労働者の他、周りの労働者にも仕事への意欲低下等の悪影響を与え得ます。また、パワハラ行為者にも職場の業績の悪化や社内での信用の低下をもたらしたり、懲戒処分や訴訟のリスクを抱えることにもなります。
このように、パワハラは、会社にとってパワハラを受けた労働者に対する金銭賠償を行わなければならないのみならず、会社自身の、職場全体の生産性への悪影響、貴重な人材の流出、会社のイメージダウンの可能性等の大きな損失につながります。
したがって、会社としては、これらの悪影響を回避するため、パワハラ対策を十分に行う必要があります。

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