16年9月:トップ(カレーハウスココ壱番屋店長)事件:弁護士の労働法メルマガ


メルマガ【2016年9月号】目次

①出勤命令とバックペイ(その1)
②行政不服審査法改正に伴う労働保険審査制度の変更

今回のメルマガ①【2016年9月号】出勤命令とバックペイ(その1)

1 出勤命令後のバックペイ(月額37万4000円)の支払を免れた裁判例

             

解雇が争われており、使用者が発した出勤命令に労働者が従わなかった事案において、出勤命令後の賃金請求権は発生していないと判断した裁判例について、ご紹介します。

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【判例】

事件名:トップ(カレーハウスココ壱番屋店長)事件

判決日:大阪地判平成19年10月25日

 

【事案の概要】

フランチャイズ店を数店経営する被告会社が、店長として勤務していた原告を、無断欠勤、勤務態度等を理由として懲戒解雇(第1次解雇)したところ、原告が、解雇の有効性を争い、労働契約上の地位の保全及び賃金の仮払いを求める仮処分を申し立て、仮処分が認められ、被告において、就労命令を発したが、原告が出勤せず、その後被告が改めて就労命令違反を理由に原告を普通解雇(第2次解雇)したところ、原告は、被告に対し、2度にわたってなされた解雇がいずれも無効であるとして、労働契約上の地位の確認、未払賃金及び慰謝料等の支払を求めた。

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。一部省略し、下線部は適宜追記しております。)】

裁判所は、第1次解雇については、

「被告が懲戒解雇事由として主張する事実は,いずれも,その該当性を認めることのできないものか,被告の就業規則上,これに該当すると認めることはできるものの,懲戒処分としての解雇を基礎づけるに足りるだけの事由とは言い難いものであり本件第1次解雇は,解雇権を濫用するもので,無効というべきである。」

と判断した。

裁判所は、保全命令後に発した就労命令及び第2次解雇については、次のとおり事実認定した。

「ア 就労命令

被告は,平成18年1月10日,原告に対し,出勤通知書を送付し,同年1月13日午後0時から,壱番屋運営マニュアル,就業規則ないし店内ルール,決定事項等を遵守した上でカレーハウスココ壱番屋鶴見緑店にて勤務することを命じた。
イ 労働条件等の照会
 原告は,平成18年1月12日付書面により,被告に対し,賃金などの労働条件や独立の問題がどうなるのかについて,明らかにするよう求め,これが明らかにされない以上,不安定な地位にあるため,本件就労命令に応じることはできない旨,通知した。
ウ 再度の就労命令
 被告は,平成18年1月25日付書面により,改めて,原告に対し,出勤通知書を送付し,同年1月27日午後0時から,鶴見緑店において勤務するよう命じた。
 被告は,原告が,上記命令に応じなかったことから,同年1月27日,改めて,原告に対し,出勤通知書を送付し,鶴見緑店において勤務するよう命じた。
エ 原告による再度の照会
 原告は,平成18年2月1日付け書面により,被告に対し,再度前記イと同様の照会をした。
オ 解雇通告
 被告は,原告が,上記就労命令に応じなかったため,平成18年2月6日付書面により,改めて,解雇通告をした(本件第2次解雇)。」

なお、裁判所は、就労命令と本件第1次解雇との関係について、

「被告は,原告に対し,平成18年1月10日,鶴見緑店にて就労を命じる本件就労命令を発し,その後,同様の命令を2回にわたり発した。なお,この本件就労命令が,本件第1次解雇の効力に与える影響が問題となりうるが,…本件第1次解雇が無効である以上,その影響を検討する必要はなく,単に,原告に対し,出勤通知書に記載した日時に出勤するよう命じる職務命令を発したものと考えるのが相当である。

と判断した。

 

そして、裁判所は、本件就労命令違反について、

「被告は,原告に対し,平成18年1月10日以降,数度にわたり,鶴見緑店への出勤を命じたにもかかわらず,これに従わなかったことが認められる。この就労命令違反について,原告は,賃金等の労働条件,独立の問題等が不明確であったため,その説明を求めたが,被告がこれに答えようとしなかったため,命令に応じることができなかったと主張する。しかし,賃金については,仮払命令が出ており,本件就労命令はこの仮払命令を受けて発せられたという経緯や,賃金以外の条件について,詰める必要性があったとは考えられず,本件就労命令に応じられないほどに,条件や地位が不安定であるとは考えられない。

と判断し、第2次解雇については、

「本件第1次解雇事由として主張された事由については,懲戒解雇を相当とするまでの事由とはいえないものの,普通解雇をするにあたっては,他の事情とともに考慮されるべきである。」として、第1次解雇の理由として主張された事由と本件就労命令違反を併せ考慮して、「本件第2次解雇が解雇権の濫用であるとする原告の主張を認めることはできず,原告は,本件第2次解雇によって解雇されたというべきである。」

と判断した。

そして、本件就労命令後の賃金請求権について

「なお,原告は,本件就労命令に理由なく従わなかったのであるから,その後の賃金請求権は発生していないと考えるのが相当である。」

と判断した。

 

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【コメント】

解雇無効が争われている場合、労働者からは、解雇されてから無効判決を得るまでの間の賃金についても支払うこと(いわゆるバックペイ)が求められます。解雇されてから無効判決を得るまでの間の賃金については、民法536条が適用され、「客観的に合理的理由のない(または相当性のない)解雇を行った使用者には、解雇による労働者の就労不能につき原則として「責めに帰すべき事由』ありとなるので、労働者は解雇期間中の賃金請求権を失わない(同条2項)。」(菅野和夫『労働法 第十一版』(弘文堂)754頁)とされています。

本判決は、出勤命令により履行が可能になったにもかかわらず、労働者が出勤命令に理由なく従わなかったことから、その後の賃金請求権の発生を否定したと考えられます。

 


今回のメルマガ②【2016年9月号】行政不服審査法改正に伴う労働保険審査制度の変更

2 労働保険審査制度変更のポイント

改正行政不服審査法の施行(平成28年4月1日)に伴い、労働保険審査官及び労働保険審査会法(以下、「法」といいます。)を含む関連する法律の規定が整備され、労働保険審査制度についても変更となりましたので、ご紹介します。

 

改正項目

改正前

改正法

不服申立構造の変更

①労働保険審査官への審査請求

②労働保険審査会への再審査請求

③裁判所への出訴

左記①②③の流れに加え、

①労働保険審査官への審査請求

②裁判所への出訴

の流れも認められることになりました

不服申立期間の延長

◆審査請求…原処分を知った日の翌日から60日以内

◆再審査請求…決定書の謄本が送付された日の翌日から60日以内

◆審査請求…原処分を知った日の翌日から3カ月以内(法第8条1項)

◆再審査請求…決定書の謄本が送付された日の翌日から2カ月以内(法第38条1項)

に変更になりました

標準審理期間設定の努力規定の創設

 

標準審理期間設定の努力義務が規定されました(法第7条の2)

審査請求手続の計画的進行規定の創設

 

審査請求人等の審理における相互協力義務が規定されました(法第13条の2)

口頭意見陳述の充実化

申立てがあった場合、審査請求人等に意見を述べる機会を与える義務を規定

左記に加え、

◆口頭意見陳述を全ての審理関係人を招集して実施することになりました

◆口頭意見陳述の申立人は、陳述に際し、処分庁に対する質問が可能になりました(法第13条の3)

特定審査請求手続の計画的進行規定の創設

 

事件が複雑な場合など、必要がある場合に、審査官が当事者を招集し、特定審査請求の手続の申立てに関する意見の聴取を行うことが出来るようになりました(法第16条の2)

物件の閲覧規定の創設

 

 

審査請求人等は、審査官に提出された文書その他の物件の閲覧を求めることができるようになりました(法第16条の3)

 


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2012年11月に弁護士田村裕一郎が執筆しました「未払残業代請求」に関する書籍が出版されました。詳細はこちらです。
2012年8月に弁護士田村裕一郎が執筆しました「合同労組」に関する書籍が出版されました。詳細はこちらです。
2017年8月に弁護士田村裕一郎、弁護士古田裕子、弁護士上村遥奈、弁護士柴田政樹、弁護士山本幸宏、弁護士井上紗和子が執筆しました『裁判例を踏まえた病院・診療所の労務トラブル解決の実務』(株式会社日本法令様)が2017年9月14日頃より発売されました。詳細はこちらです。
当事務所にて執筆致しました、『企業のための 副業・兼業 労務ハンドブック』(株式会社日本法令様)を2018年6月20日に出版致しました。詳細はこちらです。
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2018年11月に弁護士田村裕一郎と弁護士井上紗和子が執筆しました記事「フレックスタイム制にかかわる法的留意点」が労務事情2018年12月1日号(産労総合研究所様)に掲載されました。
2018年9月に弁護士田村裕一郎と弁護士柴田政樹が執筆しました記事「副業容認で注意すべき企業の民事責任と対応策」がビジネスガイド2018年10月号(株式会社日本法令様)に掲載されました。



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