16年8月:ハマキョウレックス事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ(組合対策、労働訴訟、労働審判等)


①【2016年8月号】同一労働同一賃金の原則(その1):ハマキョウレックス事件

 1 労働契約法20条の不合理な労働条件の相違についての裁判例(正社員と契約社員の賃金格差が違法として、77万円の支払命令)

 

正社員と契約社員との労働条件(各種手当等)の相違が法20条のいう「不合理」なものと言えるかが争われ、各種手当のうち、一部の手当につき不合理といえる、とする裁判例がありますので、ご紹介します。

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【判例】

事件名:ハマキョウレックス事件

判決日:大阪高判平成28年7月26日

 

【事案の概要】

 

東証一部上場の物流会社「ハマキョウレックス」の契約社員の男性が、同じ労働にもかかわらず、正社員にだけ支給される手当があるのは不当であるとして、無事故手当・給食手当等の支払いを求めた。

※ハマキョウレックスの各種手当一覧<詳細は略>

       契約社員       正社員        

基本給    時給制        月給制        

住宅手当   支給なし       2万円     

皆勤手当   支給なし     該当者には1万円   

家族手当   支給なし        あり         

無事故手当  支給なし     該当者には1万円   

作業手当   支給なし     該当者には1万円 

給食手当   支給なし       3500円  

通勤手当   3000円    通勤距離に応じて支給  

定期昇給   原則なし        原則あり       

賞与     原則支給なし     原則支給あり     

退職金    原則支給なし     原則支給あり     

 

【結論】

 

***第一審の判決***

 

第一審は、「労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が,それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して,当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味する」と定義した。

そして、第一審は、被告は従業員約4500人を有する東証一部上場企業であり、正社員は業務上の必要性に応じて就業場所や業務内容の変更命令を受けなくてはならず、出向先も全国に及び、将来支店長等の責任者となる可能性を有している一方、契約社員は労働内容、労働時間、休息時間等の変更を受けるに留まるものである等と認定した。

その上で、「被告におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば,少なくとも無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び家族手当……の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は,被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないというべきであるから,本件有期労働契約に基づく労働条件の定めが公序良俗に反するということはできないことはもとより,これが労働契約法20条に反するということもできない」と示した。

 もっとも、通勤手当については、「被告において,通勤手当が交通費の実費の補填であることからすると,通勤手当に関し,正社員が5万円を限度として通勤距離に応じて支給される(2km以内は一律5000円)のに対し,契約社員には3000円を限度でしか支給されないとの労働条件の相違は,労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察すると,公序良俗に反するとまではいえないものの,被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものであり,労働契約法20条の「不合理と認められるもの」に当たるというべきである」と示し、第一審では、通勤手当の支払いのみ認められた。

 

***控訴審判決の結論***

 

大阪高裁は、「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「通勤手当」は「雇用期間を理由に正社員だけに支給することは不合理」と判断し、77万円の支払を命じた。

一方、「住宅手当」などは正社員には転勤があることなどを理由に認めなかった。

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【コメント】

 

一般論として、法20条の「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更範囲の異同(類似性)にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるをえないものを意味する(菅野和夫他『詳説 労働契約法〔第2版〕』(弘文堂)240頁以下)。または、不合理性判断については、1、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、2、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、3、その他の事情であり、不合理か否かの判断は、これらの要素を考慮して個々の労働条件ごとに判断される(黒田敏正『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法』(日本評論社)430頁以下)とされている。

本件の場合、第一審は、「労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が,それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して,当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味する」と示しており、上記一般論と同様の枠組みを踏襲している。

現時点(平成28年8月9日現在)では、控訴審の判決文が明らかになっていないため、裁判所がどのような判断枠組みをとったのか判然としない。もっとも、結論において、上述の4つの手当の待遇格差が高裁レベルで違法となったことは、実務上、大きな意味を持つ。

 

今後の実務上の対応策としては、「労働条件につき相違を設ける場合」、(「合理的である」といった説明なのか、「不合理ではない」といった説明なのか、は別にして)「理由の説明」ができるようにするだけでなく、それを裁判上も立証できるような準備をしておくことが望ましいといえよう(なお、当職は「不合理」の立証責任は、あくまでも、労働者側にあると考えている)。個別の労働条件ごとの対応については、セミナー等で情報発信していきたいと思う。

②【2016年8月号】同一労働同一賃金の原則(その2):長澤運輸事件

1 定年後再雇用者の待遇についての裁判例(正社員と定年再雇用者の賃金格差が違法として、415万4822円の支払命令<判例>)

 

 定年後再雇用された従業員の待遇について、労働契約法20条違反を認め、正社員就業規則の適用により正社員の賃金の定めと同じものになるとする裁判例がありますので、ご紹介します。

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【判例】

事件名:長澤運輸事件 

判決日:東京地判平成28年5月13日

 

【事案の概要】

 

原告らは、セメント運輸等の輸送事業を営む会社である被告を定年退職した後、被告との間で期間の定めのある労働契約を締結して就労していた。原告らは、原告らと正社員(期間の定めのない労働契約を締結している従業員)との間に不合理な労働条件の相違があると主張し、不合理な労働条件の定めは労働契約法(以下、「法」とします。)20条により無効であり、原告らには一般の就業規則の規定が適用になるとして、被告に対し、①当該就業規則の適用を受ける労働契約上の地位の確認、②当該就業規則により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金の差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

 

【判旨①法20条違反の有無について(「」内は判旨の一部抜粋。一部省略し、下線は適宜追記しております。)】

 

裁判所は、まず、法20条の適用につき、「本件有期労働契約は,期間の定めのある労働契約であるところ,その内容である賃金の定め……は,正社員(被告との間で期間の定めのない労働契約を締結している撒車等の乗務員)の労働契約の内容である賃金の定め……と相違しているから(以下,この相違を「本件相違」という。),本件有期労働契約には,労働契約法20条の規定が適用される」とした。

 

 

 

そして、本件相違が不合理なものと認められるかにつき、一般論として、法20条が考慮要素として「〔1〕職務の内容,〔2〕当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,〔3〕その他の事情を掲げて」いるところ、「同条が考慮要素として上記〔1〕及び〔2〕を明示していることに照らせば,同条がこれらを特に重要な考慮要素と位置づけていることもまた明らか」であるとした。その上で、「有期契約労働者の職務の内容(上記〔1〕)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記〔2〕)が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず,労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について,有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは,その相違の程度にかかわらず,これを正当と解すべき特段の事情がない限り,不合理であるとの評価を免れない」と示した。

 

【本件へのあてはめ①】

 

まず、本件について、「嘱託社員である原告らと正社員との間には,業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に差異がなく,被告が業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも両者の間に差異はないから,有期契約労働者である原告らの職務の内容(上記〔1〕)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記〔2〕)は,無期契約労働者である正社員と同一であると認められる。」と認定した。

 

そして、前記特段の事情については、「企業において,……賃金コストの無制限な増大を回避しつつ定年到達者の雇用を確保するため,定年後継続雇用者の賃金を定年前から引き下げることそれ自体には合理性が認められるというべきである。しかしながら,他方,我が国の企業一般において,定年退職後の継続雇用の際,職務の内容(上記〔1〕)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記〔2〕)が全く変わらないまま賃金だけを引き下げることが広く行われているとか,そのような慣行が社会通念上も相当なものとして広く受入れられているといった事実を認めるに足りる的確な証拠はない」として、更に被告の賃金体系について「被告としては,定年退職者を再雇用して正社員と同じ業務に従事させるほうが,新規に正社員を雇用するよりも賃金コストを抑えることができる」と認定した上で、「被告においてその財務状況ないし経営状況上合理的と認められるような賃金コスト圧縮の必要性があったわけでもない状況の下で,しかも,定年後再雇用者を定年前と全く同じ立場で同じ業務に従事させつつ,その賃金水準を新規採用の正社員よりも低く設定することにより,定年後再雇用制度を賃金コスト圧縮の手段として用いることまでもが正当であると解することはできないものといわざるを得ない」と判断した。

 

以上より、本件については、嘱託社員と正社員の「賃金の額に関する労働条件に相違を設けることを正当と解すべき特段の事情は認められない」ため、「本件相違は,労働者の職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであり,労働契約法20条に違反するというべきである」とした。

 

【判旨②法20条違反が認められる場合の原告らの労働契約上の地位】

 

上記のとおり本件有期労働契約による賃金の定めが法20条違反であるところ、「同条は,単なる訓示規定ではなく,民事的効力を有する規定であると解するのが相当であり,同条に違反する労働条件の定めは,その効力を有しない」とした。

 

【本件へのあてはめ②】

 

本件については、「被告の正社員就業規則が原則として全従業員に適用されるものとされており,嘱託者についてはその一部を適用しないことがあるというにとどまることからすれば,嘱託社員の労働条件のうち賃金の定めに関する部分が無効である場合には,正社員就業規則の規定が原則として全従業員に適用される旨の同規則3条本文の定めに従い,嘱託社員の労働条件のうち無効である賃金の定めに関する部分については,これに対応する正社員就業規則その他の規定が適用されることになる」ものとして、「本件有期労働契約の内容である賃金の定めは,これが無効であることの結果として,正社員の労働契約の内容である賃金の定めと同じものになるというべき」であると認定した。

 

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【コメント】

 

本判決は、正社員であった労働者が定年後再雇用となった場合についても法20条が適用されることを判断した裁判例である。そして、法20条の判断について①有期契約労働者の職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)並びに②当該職務の内容及び配置の変更の範囲が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず,労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について,有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは,その相違の程度にかかわらず,これを正当と解すべき特段の事情がない限り,不合理である、との使用者に厳しい判断枠組みを取っていると考えられる。特段の事情の判断にあたって、本判決は、一般論として、定年後再雇用者の賃金を定年前から引き下げること自体には合理性があるとしつつ、被告の財務状況、定年後再雇用者の賃金水準を新規採用の正社員よりも低く設定していることに着目していると考えられる。ただし、どのような事情があれば特段の事情が認められるかについては今後の裁判例の集積を待つ必要がある。

 

この裁判例の判断枠組みの適用を受けないようにする観点からは、定年後再雇用にあたり、①職務の内容②当該職務の内容及び配置の変更の範囲を正社員であった時期とは変えることが重要と考えられる。

 

また、本判決は、法20条に、民事的効力を認め、原告らの請求した賃金の差額等については、不法行為の構成によらずに、本件の就業規則の規定ぶりに着目し、正社員の就業規則を適用して算定するとの判断をしている。そのため、今後の使用者側のリスク対応としては、就業規則及び定年再雇用規程をどのように作成するか、再検討する必要がある。

 

なお、本件は、控訴されているので、控訴審の判決(又は和解)に注目すべきといえよう。

③【2016年8月号】「ブラック企業」とネットに書き込まれたら

最近、ネットによる風評被害のご相談が増加しています。当事務所でも、そのようなご相談に対応するため、新たに企業ネット風評被害対策部門を立ち上げました。企業ネット風評被害対策部門では、例として、次のような書き込みがされた場合の法的措置につき、対応いたします。

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【事例1】「○○県で1~2位を争うブラック企業だよ。」

【事例2】「○○県△△市 □□社 給料を払ってくれない どうしようもない経営陣」

【事例3】「○○県△△市□□エンジニアリング 死にたい方は入社どうぞ ブラック」

【事例4】「○○県△△市□□エンジニアリング 30年前の技術力で他の会社が食いつきもしない 残飯案件で数をこなし首の皮一枚で生きてる会社 チンピラまがいが残ってしまいまともな社員がいない」

【事例5】「○○県△△市□□エンジニアリング 残業代カットしまくり ブラック 年収200万円台の会社 社内は地獄絵」

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上記の事例は、裁判例において、いずれも名誉毀損にあたるものとして、発信者情報の開示が認められました。

 

事例の詳細はこちらをご覧ください。

http://www.fuuhyouhigai-bengoshi.com/?page=page3

 

企業ネット風評被害対策部門

http://www.fuuhyouhigai-bengoshi.com

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